和方養生技術伝承塾~鍼灸・操体実践講座~ 急性期から慢性期まで患者さんが喜ぶ技術を伝承します

術伝流一本鍼no.14

(1)基本的に
 応急処置の原則は「遠くに強く引く」でした。患部が胴や頭などの体幹部にあるとき
には、「遠く」として手足の甲が使われますが、患部が指まわりのときには手足の甲は
「遠く」とはいえませんし、手足の甲を使っても邪気を体の外に引けません。手足の甲
のほうが胴体に近いからです。また、指まわりは、鍼すると痛がられるので、鍼は使い
にくいことが多いです。接触鍼なら可能ですが。そのため、鍼の場合には、巨刺を接触
鍼でしたりしますが、調節が難しくなります。

 指まわりや手のひら、足の裏などの辛さには、灸、とくに硬く細くひねった糸状の直
接灸が効きます。突き指、指の捻挫、使いすぎによる指まわり、手のひら、足の裏など
の炎症、腱鞘炎による指の痛みなどに効果があります。手首足首などの痛みにも効果が
あります。手首足首などではほかの方法もありますので、患者さんと相談して適切な方
法を選んでください。

 灸の熱さに弱い方の中には、指まわりでも鍼のほうが良いという方もいます。


(2)ツボ探し、糸状灸の作り方、立て方 †
 この方法のポイントのひとつは、ツボ探しです。指まわりのツボは細かいので、達人
ならともかく、普通の人には指では探せません。鍼柄くらいの太さのもので探します。
術伝では、直径1.5mmのステンレス棒を加工しツボ探し棒を作りました。

 ツボの出てそうなあたりをその太さのもので縦や横にたどってみて、いちばんペコペ
コしてヘコんでいるところを探します。そこをその太さのもので押してみて、ツンとい
う感じ、ピリビリという感じで痛かったら、そこがツボです。角度によっては感じない
こともあるので、押す角度を工夫してください。いくつか候補があった場合には、押し
た痕が広めに赤黒く深くヘコみ、なかなかヘコみが浅くならなくて色が薄くならないほ
うを取ります。

 鍼柄の太さで探しにくかったら、すこし太い直径3~5mmくらいのもので探してから、
鍼柄くらいの太さのもので探すとみつけやすいです。竹串の先端を鍼柄の太さくらいの
ところで爪切りなどで切り落としてから、両端を爪ヤスリなどで丸めると、ツボ探しの
道具ができ上がります。指、竹串の太いほう、竹串の細いほうの順で探せば、誰にでも
みつけられます。この道具は、円皮鍼や皮内鍼、またはマグレインなどの粒鍼を貼ると
きのツボ探しにも使えます。耳鍼のときには、先端を痛くない範囲でもうすこし細くし
たものを使います。エゴマ油やビーワックスなどを塗ると汚れが付きにくく、使いやす
くなります。

 もう一つのポイントは、艾を硬く細くひねることです。底面の直径は0.5mm以下を
目指します。それ以上太いと熱くなりすぎるし、痕が残りやすくなります。また、ピン
ポイントで施術したほうが効果が上がりやすくなります。0.5mm 以下なら、黒く痕に
なってもしばらくするとポロッとはがれ落ちて、痕が残りません。細く作るコツは艾を
つまむときに薄くはぐようにつまむことです(写真1)。
画像の説明写真1
そして、力をいれて一度ひねれば、硬い糸状灸ができます(写真2)。
画像の説明写真2
もっとも子供用は、同じ細さで力をいれずにふんわりとしたものを作ったほうが良いで
す。長さはすくなくとも5mmは必要で、あまり短いと線香を近づけるときに熱いと言
われます。

 細くて立ちにくいので、灸点墨をツボにつけて立たせます。ステンレスのツボ探し棒
の頭のほうを使って墨をつけています。細い灸を立たせるのに紫雲膏やオイルを使う方
もいますが、どちらも油が使われているため必要以上に熱くなりやすいので、あまりお
すすめできません。

 糸状灸が上手に作れない方は、手指用糸もぐさを使うとよいです。しかし、糸状灸に
比べると大変熱いですから、途中で消すこと(八分灸)が必要な場合が多いです。手指
用糸もぐさの場合は、糸もぐさそのものを灸点墨のなかにさしいれて墨をつけてから立
てても良いです。


(3)手順 †
 鍼による応急処置の手順と基本的には同じです。

 まず、どういう動作でどのあたりが辛いかよく確かめます。また、指まわり以外に辛
さを感じている場所があるかどうかも確認します。肘膝、腰肩などにも辛さがあるとき
には、さきにそちらの治療をしたほうがよいです。胴体よりを治療したあとに邪気を末
端に引いてくると、また指まわりが痛み出すことがあるからです。

 治療は井穴から。もっとも痛い場所の延長線上の井穴に灸点墨をつけ硬く細くひねっ
た糸状灸を1壮します。これは鍼の手足の甲への引き鍼に相当します。

 つぎに、その井穴ともっとも痛むところを結ぶライン上のツボを探します。指関節ま
わりの窪みなどでペコペコとヘコんだところが狙い目で、もっとも痛むところよりもす
こし胴体よりの手首足首ちかくにもツボが出ていることもあります。胴体にいちばん近
いツボから井穴のほうへの順で、灸点墨をつけてから、硬くひねった糸状灸を1壮しま
す。たいてい1壮で充分ですが、痛みが残っているときには、もう1壮します。

 痛むラインが2,3本あるときは同じように灸します。

 痛むラインの灸を終えたら、ためしに患部を動かしてもらいます。動かして痛みや辛
さがのこっていたら、痛む直前の格好で痛むあたりを、鍼柄ほどの太さのものを縦横に
動かして、いちばんヘコんだところを見付け圧痛があったら、灸点墨をつけてから灸を
します。鍼の場合の動作鍼にあたる方法です。施灸後また動かして痛むようなら、同じ
ようにツボ探しをして、灸をします。動かして痛むところが無くなるまで続けます。

 状態によっては、動かすと前腕・下腿など胴よりに痛みが出てくることもあります。
指を動かす筋肉の筋腹や起始は前腕の肘よりや下腿の膝よりにあるし、指を動かすとき
には肩甲骨や骨盤や背骨もいっしょに動いているからです。また、手指の痛みの場合で
も手指を使う姿勢によっては足腰にも辛さが出てくる場合もあります。そういう場所の
治療は鍼でしてもよいでしょう。今まで説明してきた、動作鍼の方法で施術してくださ
い。

 おわりに、施灸したところの延長線上の指の井穴を押してみて、いちばん痛いところ
に灸をします。指が何本かあれば、それらの井穴の痛さを比較していちばん痛いところ
を選びます。はじめに灸したところと同じ井穴になったら、指端や骨空に灸をします。
鍼の場合の最後の引き鍼に当たる方法です。足の親指の井穴の場合には、陰経側なので、
そこで止めずに陽経側の足指か手指の井穴のなかから次に痛いところをみつけて、灸し
て終わります。


(4)多いのは、親指の辛さ †
 こういうお灸の仕方は、指だけでなく手首足首までの辛さにも使えます。いちばん多
いのは、マッサージなどのバイトのし過ぎで親指を痛めたという例ですが、残念ながら
撮らせていただいた写真がピンぼけでした。そこで、親指の痛い方で治療中の写真を撮
らせてくださる方を募集しています。そういう方は術伝事務局までメールをくださるよ
うお願いします。

 今回は、写真がとれた手首の橈屈で痛みが出る方と遠位指関節捻挫の方の例を紹介し
ます。


(5)手首の橈屈が辛い例 †
 左手首を橈屈すると、指で示した部分が辛い方の例です(写真3)。
画像の説明写真3
小指の外よりの井穴から順に、井穴と痛むあたりを結ぶ線上でヘコんだところをツボ探
し用ステンレス棒で押してみて痛い場所を探し、青い丸印を書きました(写真4)。
画像の説明写真4
念のため、そのラインを肘近くまで調べましたが、前腕にはあまりツボが出ていません
でした。

 まずは、小指外よりの井穴に灸しました(写真5)。
画像の説明写真5
そのあと印をつけたところを前腕よりのほうから指のほうへの順で灸していきました
(写真6、7、8)。
画像の説明写真6
画像の説明写真7
画像の説明写真8

 はじめに痛かったところの施灸を終えたあと、試しに橈屈をしてもらったら(写真9)
、新たに2カ所痛む場所が見つかったので、そこに赤い丸印をつけ(写真10)、そこに
灸しました(写真11)。
画像の説明写真9
画像の説明写真10
画像の説明写真11

 もう一度橈屈してもらったら痛む場所がなくなったので、小指骨空に灸してしあげまし
た(写真12)。
画像の説明写真12


(6)突き指で指を曲げられない例 †
  左手薬指を突き指して、痛くて指が曲げられないとのことでした(写真13)。左手薬
指を調べ、痛むところに灸点墨で印をつけました(写真14)。
画像の説明写真13
画像の説明写真14

 あまりにも指先なので、その指の井穴では遠くとは言えないので、巨刺に準じた方法で
やってみようかと右薬指を調べたら、左よりは少ないですがツボが出ていたので(写真15)、
順に灸しました(写真16、17)。
画像の説明写真15
画像の説明写真16
画像の説明写真17

 そのあと、左薬指をツボ探し棒で調べ直したら(写真18)、ツボが減っていました。こ
のツボの出方からすると、小指よりを突いた可能性が高いと思います(写真19)。
画像の説明写真18
画像の説明写真19

それらのツボに順番に灸し(写真20、21、22、23)、最後に小指側の薬指井穴に灸して
仕上げました(写真24)。
画像の説明写真20
画像の説明写真21
画像の説明写真22
画像の説明写真23
写真24

そしたら、他の指と同じくらい曲げられるようになりました(写真25)。
画像の説明写真25

(7)おわりに
 指は、経絡の末端であり、指への灸で全身の経絡的歪みを調整できたりもします。逆に
言うと、指の辛さがその指と経絡的に関係するところ(体幹部内の臓器もふくめて)の歪
みを大きくさせてしまうことも考えられるかなと思います。

 また、指の辛さで肘膝までを診ることと、肘膝から先に手足の要穴が多いことを考え合
わせると、指の辛さは、その指の延長の手足の要穴に関係していることになりますし、ま
た、それら要穴と経絡的関連のある体幹部のまだ顕在化していない歪みや変動の反映の可
能性もあります。

 指の痛みをほっておかずに、できるだけ早く辛さを解消したほうが良いと考える理由の
一つですし、他の肘膝から先の辛さにも同じようなことが言えるのではないかと考えてい
ます。

 筆者は、治療中は、おもに息の深さで効果的かどうかを観てさじ加減し、治療直後は、
喜んでもらえたか、嬉しそうな表情になったか、足取りがかるくなったかなどで有効かど
うか判断し、その後は、次の日の朝の寝覚めが良かったかなどで効果を上げたか判断して
います。

 局所治療をしても、治療中に息が深くなり、治療後に喜んで嬉しそうな表情をしていれ
ば、全身治療としてみても、かなり効果的だったと考えてよいのではないかなと考えてい
ます。息が深くなったり、嬉しそうな表情をするのは、全身的なことだと思いますので。

 このあたりの判断は、術伝HPの「鍼は引き鍼」内の「治療は対話」にくわしく書きまし
た。興味ある方は読んでみてください(ただし、おもに操体関係者に向けて書いたものな
ので、鍼灸におきかえて読んでください)。

 逆に、辛さが減り可動域が改善しても、喜んでいただけないときには、さじ加減を間違
えたかなと思い、次はもう少し工夫してみることにしています。これは、全身治療すると
きも同じです。耳、手、足裏、肘膝から先だけで治療する流派の人もいるし、このあたり
の全身と局所の相関関係は、東洋医学のおもしろいところだなと思ってみています。

 今回書いた方法で、指の痛みは、かなり解消できると思います。 試してみてください。

 また、この方法で解消できなかったり、改善できてもすぐにぶり返したりすれば、単な
る運動器系の病変ではない可能性が高くなるということかなと考えています。そういう場
合は、腹診などふくめて全身の慢性期の養生が必要になると思います。そういう場合の処
置は、「養生の一本鍼」というテーマで別途書きたいと思っています。逆に言えば、この
方法で解消できれば、単なる運動器系病変の可能性が高く、そういう意味で、判断の一つ
に使えるのではないかと考えています。

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