和方養生技術伝承塾~鍼灸・操体実践講座~ 急性期から慢性期まで患者さんが喜ぶ技術を伝承します

横輪切りの原則

横輪切りの原則
 ある特定の動作をし続けると、ある特定の筋肉が縮んだままの状態や伸びきっ
たままの状態になります。それが体が歪むと言う事であり、そういう伸び縮み
が出来ない状態になった筋肉の部分をツボと呼ぶという話を前回はしました。
今回は具体的に、特定の動作を繰り返す事でどういう部分にツボができていく
かを見ていきます。

 腰痛や肩こりでも良いのですが、咳から話を始めます。咳をする姿勢を思い
出してください。咳をする時には、背中側の肩胛骨上半分ぐらいの位置で背中
を前に曲げ、お腹側では鎖骨の少し下ぐらいを一番縮め、腕と胸の間は縮め、
背中と腕の間は伸ばした格好をしていませんか。そして、口元に手を近づける
ため、肘の親指側を曲げていませんか?そういう処に、咳を治療するツボが出
ます。

 喘息は息が吐けなくなる病気なのだそうです。息を吸いきった姿勢を思い浮
かべると、胸の胸骨中央付近や腕と胸の間を伸ばし、反対側の肩甲間部上半分
や腕と背中の間を縮めていますね。喘息のツボはそういう処に出ます。それは、
咳の場合と場所が同じなのですが、姿勢は反対のように思えます。何故かなぁ
と考えています。ひょっとしたら、喘息の発作というのは、咳をし続けて歪ん
だ体を元に戻そうとする自然発生的なもの、つまり、寝返りやアクビやノビ、
ちょっと歪みが酷くなった時のカゼのような感じの、咳というか呼吸器系用の
専用の後戻りシステムの可能性って無いですか。考え過ぎかナ。

 腕と胸の間にある呼吸器系に効くツボの事では、忘れられない思い出があり
ます。私の次男は、626g、23週の超未熟児として生まれ、6ヶ月入院し
た後、肺に後遺症が残ると言われ、酸素ボンベを背負って退院しました。その
次男が、そこのツボをくすぐっていたら、2ヶ月ほどで、肺の影が消え、酸素
ボンベを外して良い事なりました。

 なんでも、23週くらいだと、まだ、肺呼吸の段階にないのに出てきてしまっ
ているので肺に負担が掛かる上に、男性ホルモンと肺の発達にバッティングす
る部分があるので、男の子では肺に後遺症が残る、その事を覚悟してください
と言う説明を主治医から、受けていました。確かに、TVや新聞などで報道さ
れる超未熟児は女の子が殆どです。

 実は、この時には、私は、腕と胸の間、正確には、腕に近い胸の窪みが肺に
効く事を知っていませんでした。生まれて直ぐから6ヶ月入院した後、酸素ボ
ンベを付けて帰って来た次男は、最初、泣きも笑いもせず、親に抱かれるのを
突っ張って拒む状態でした。病院で抱かれるという事は痛い処置をされる事だっ
たからだと思います。これでは、積極的に何か仕掛けないほうが良さそうだと
いう事で、嫌がれる事はしない、必要な事はしてあげるという事しかできませ
んでした。このあたり、操体を知っていなかったら、こういう判断が出来たか
どうか解りません。

 2ヶ月して嫌なことには泣いて抗議するようになり、3ヶ月して抱いて始め
て笑った時には、涙が零れました。さぁ、いよいよ、橋本敬三・翁先生が赤ちゃ
んには何でも効くと書き残していた「脇腹くすぐり」だぁとやってみたのです
が、全然反応が有りませんでした。眼の前が真っ暗になりました。

 しばらく落ち込んだ後、落ち込んではいられないと、全身擽ってみる事にし
ました。そしたら、胸の一番腕に近い部分だけ大変擽ったがったのでした。し
かも、指先よりも唇を軽く触れて横に振るのに一番反応する事が解り、それか
ら、お風呂に入れる時やおしめを替える時を始め、しょっちゅう擽っていまし
た。そしたら、そこを擽りはじめてから2ヶ月ほどして受けた定期的な肺の検
診の際にレントゲン断層撮影をした結果、胸に影が無い事がわかり、酸素ボン
ベを外して良い事になりました。肺の一番小さな単位である肺胞が潰れていた
ので呼吸能力が低かったし、それが影として写っていたという主治医の方の説
明でした。びっくりされたようでした。

 後に鍼灸学校に入って、ここが「中府」と呼ばれ、お腹側では肺の病に一番
効く(「肺の募穴」)と古典にも書かれている事を知り、私がツボや経絡にの
めり込む切っ掛けになりました。昔の人も嘘は書いていない、ただ、今の人に
は解りにくい言葉で書いているだけだ、体の自然を良く観察し、昔の人が伝え
残したかった内容を今の人にも解りやすい言葉に直せばよいだけの事だと思う
ようになりました。もちろん、時代によって、働く時の体の使い方などが違う
ので、違う部分も有るとは思いますが、それも現在の体の使い方などを含めて
考えていけば良いと思っています。この「操体もくもく」はその中間報告です。

 さて、お腹が痛い時には、お腹側では、鳩尾から臍くらいを一番縮めますか
ら、背中側は、その真裏が一番伸びますね。ちょうどその辺りのお腹側にも背
中側にも腹痛に良く効くツボが出ます。特に背中側は、お灸の世界では「胃の
六灸」と呼ばれる有名なツボが並ぶ所です。同じお腹が痛い時でも女性の方の
生理痛など下腹部が痛い時には、下腹部を一番曲げますから、ウェストライン
よりも下側の背中側が伸びる事になり、その辺りにツボが出ます。

 つまり、だいたい、内科系の病気では症状が出ている臓器の横輪切り、つま
り、立った姿勢での地面に水平な面と体表面や筋肉の交わる辺りにツボが並び
ます。これがツボの出方の第一原則です。カワの操体で手や指を当てる場所を
頭・首・胴の部分で探す時の目安になります。鍼灸でも同じです。

(橋本先生が1937年に指摘した重力の付加分担という考え方に従えば)
(この横輪切りの相関関係は、横になって寝ている時の重力付加分担)
(と言えるような気がしています。2007.3.15追記)

 この横輪切りの中で最初にツボが出るのは、背中では脊柱起立筋の一番太い
辺りで、お腹側では腹直筋の一番太い辺りです。特に、背中側は、1番始めに
出るせいか「1行線」と呼ばれ、肺愈、心愈、肝愈、胃愈など、「臓器を癒す」
という意味のツボが並ぶラインです。これは、先ずは、一番太い処でバランス
の崩れを支えようとするからだと思います。

 しかし、その状態が長く続くと、少しづつ横にずれていくようです。つまり、
歪んでから時間が経つにつれて、中心寄りと外寄りに出る事が多くなります。
中心寄りでは、背中側は背骨の間(棘突起間)や背骨の直ぐ脇(横突起間)、
お腹側は正中線上とその直ぐ脇や臍周りに出ます。外寄りでは、背中側は脊柱
起立筋の一番外寄りの端に、お腹側は肋骨の下の外寄りや腰骨のお腹よりに出
ます。詳しく書くと、この話は長くなりますので、後で、「古いツボ、古い病
という話題で、まとめて書きたいと思います。取りあえず、ここでは、横輪切
りの中で始めにツボが出るのは、背中側もお腹側も筋肉の一番太い処だと思っ
ていて下さい。

 漢方の世界では、肩胛骨から上の背中側を太陽位と呼んで、病の初期状態を
その箇所で判断する事が多いです。これは、カゼを始めとする病のかなり多く
が口・鼻・喉などを経由する上気道感染症であるためだと思われます。つまり、
横輪切り原則によって、その場合には、口鼻喉など(上気道)の背中側にも変
化が現れたり、ツボが出たりするからだと思います。

 さて、少し脱線します。漢方の基本的文献である『傷寒論』という本は、当
時の中国では一番南方のほうで「傷寒」という新しい病気が流行り、その治療
に奮闘した方によって書かれました。どちらも「太陽病」である、「中風」と
いう軽い病気と「傷寒」という重い病気を比べて書かれています。

「太陽之為病、脈浮、頭項強痛而悪寒」
「太陽病、発熱、汗出、悪風、脈緩者、名為中風」
「太陽病、或巳発熱、或未発熱、必悪寒、体痛、嘔逆、脈陰陽倶緊者、名曰傷寒」

 中国南方のこの地域は今でも新型インフルエンザやSARSなどの新らしい
ウイルスによる上気道感染症の生まれる地域として知られています。ウイルス
は、渡り鳥によって運ばれ、アヒル・鶏などや豚などの家畜類と人間の間を行
き来しながら新型へと変異していくようです。この地域は昔から人間とそれら
の家畜が一緒に住んでいたので、新しい感染症の発生地になったようです。私
には、「傷寒論」は、現在の言葉で言えば、普通のカゼと、新型インフルエン
ザやSARSなどの人類が初めて出会うウイルスによる上気道感染症の治療法
の違いを書いた物のように思えます。

 操体の話に戻ります。この横輪切り相関の例は、橋本敬三・翁先生の本では
『万病を治せる妙療法』のp66に「腹痛には背中の胸腰椎境界付近」という
例が、p210に「マストから落ちて額を陥没骨折した方の後頭部の対称点に
ひどい圧痛があり、痛くない程度に押したら気持ちよいと言う事で、2,3ヶ
月続けたら、額の陥没骨折の痕があまり目立たない程度になった。」という話
が載っています。

 頭の後ろ側にツボが出る例では、私自身は、網膜剥離の方でちょうど目の真
後ろに当たる後頭部にベコベコに凹んだツボが出ているのに出会った事があり
ます。網膜剥離の方は、やはり適度な圧で後頭部のツボを圧すと気持ちよいと
言うことで、橋本敬三・翁先生のマストから落ちた方の例を話し、時々圧しな
さいと助言しました。また、翁先生の本には、足の内側横(中央、足厥陰)の
経絡が眼に関係する事も書かれていたので、それを伝えた処、向こうずねの骨
の処のツボに灸すると気持ちよいと言っていました。(これは、次回の縦割り
のツボです)

 この方は私の鍼灸学校時代の1年後輩で、網膜剥離の進行が速く、このまま
では失明する可能性が高いと言われ、その前に技術を習得しようと鍼灸学校に
入った方でした。上記の二つの事を続けたら、進行が止まり、視力も或る程度
快復し、元の仕事に戻り、時々、操体や鍼灸の仕事もされているようです。

 また、便秘に良く効くお灸のツボとして知られる沢田流神門も、この横輪切
り原則が当てはまる例かなと思います。沢田流神門は手首小指側の窪みにあり
ますが、普通に立ち、手を垂らした状態では、胴体のS状結腸・直腸がある部
位と地面からほぼ同じ高さで、前横後ろという分類では後ろ側になるからです。
ここまで横輪切りに含めるのは異論があるかもしれませんが。

 さて、今回は、ツボの出方の第一原則として、頭・首・胴の症状の出ている
部分を通る地面に平行な面と、体表面や筋肉の交わる付近、つまり、立ち姿勢
での横輪切りというものを紹介しました。次回は、これと垂直に交わる縦切り
の第二原則について書きます。

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